次郎の物語

    

 

 これは次郎が小学三年生の時の夏休みに描いた作品である
 「悪魔の脳みそ迷路」約一月かかったと思う
 「おーい次郎くん 遊ぼうよ」と友達が誘いに来ても
 居間で描き続けていた 時々頭をおさえながら・・・
 描きながら頭が痛くなったりぼ〜っとしたりしたらしい
 神経質な子供であった 細密な事が好きだった


 ある日 次郎から遺書が届いた
 いろいろ書いあとに「最後まで迷惑をかけてすみません」とあった
 私は「最後」が「最期」でないことにかけた
 駆けつけるとなにもかも処分し糸くず一本落ちていない部屋に
 次郎が倒れていた やせ衰えて・・・でも生きていた


 今次郎は静かに休んでいる
 私も最初は慌てふためき保健所や親の会などを何度も訪ねたが
 しかし次郎は次郎なのであった
 社会からの転落と言えるかもしれない
 次郎自身の個人的な資質 社会の在り方 いろんなものに
 押しつぶされた そうなのだと思う
 休んで力を取り戻すしかないと母は思う
 悪魔の迷路から抜け出してゴールに向かって歩いていてほしい
 朝の光のさすところにたどりつくのを待っている


 可愛かった次郎 家では道化役になって家族を笑わせて
 子猫のように自由気ままで泣き虫だった
 ほんの些細なことが泣く理由だったが私には解かった
 「いくらでも泣きなさい」と抱きしめていた
 でももう抱きしめることはできない 大人だもの

 さあ 次郎 心の傷が癒えるまであと少し
 父母はいつまでも待っているよ
 不安にならなくていい 安心していいのよ