また思い出

或る日 金曜日に帰って来るはずの夫が木曜日に帰ってきた そしてなんの話だったか忘れたけれど臨月の腹を抱えて笑う話を聞かせてくれた 腹筋がドンジャラ動いたせいか陣痛が始まり三週間ほど早く次郎は産まれた 小さな赤ん坊だった 私は少しも騒がす黙って産んだ 母が来て「二番目は小さいね」と言い「末っ子のお産の世話はわたしの務め」と何度も繰り返し言うのだった 母は体調が良くなかった 太郎とケンカしたりぼんやりしていて私を苛つかせた 「お母さん 私一人で大丈夫だから帰っていいのよ」通りに出てタクシーをひろい母を乗せ帰し、私は思う存分にたまっていた新聞小説を読みシーツを洗い干した。二人の幼い我が子たちはあと十数年は私の腕の中でくるくると愛しくあるのだと感じた 私は二十六歳 逞しい母になっていた 幸いなり。