ちょっと・ショート(13)螺子巻き時計

       


いまどき好きだからといって なんとも頼り無い時計を見つめ


そして思い惑うこと しばしば


「今 何時でしょうか?」と尋ねようとすると


その二人連れの一方が「今10時何分?」と一方に訊いた


「15分よ」との声に


黙って自分の時計を合わせることができた


なに幾分だろうといっこうにかまわぬのだが


時折り しきりに気になることもある


物語の最期に 空に向かって腕時計をほおり投げるシーンがあった


何か知らぬが自分を絶えず縛っていたもののように感じての行為


「白愁の時」夏樹静子著


アルツハイマーに罹った男の切ない話だった


この病気を主題にした初作品ではなかったろうか


さて 私は毎朝 螺子を巻き 時に忘れてしまってもなんら困らぬ


日の高いうちに帰ってきて 光の中で手仕事をする


傾く夕日を窓から眺め 明日も良い天気だとあかい空に見入る


ささやかな食事の用意をし 夫を待つ


木曜日ともなれば疲れた様子の顔に「趣味は会社」を見る


さあさあ 早く休みましょう


私は朝まだき 起きだし暗さを楽しむ


夜の暗さとは違う静けさが安心で自由な時だ


私に時計を投げ捨てる時は来るのだろうか


いや その前に 螺子を巻く指が利かなくなるだろう


大きな竜頭に付け変えなければ・・・


時計と同じくらいの竜頭がついたら巻き易かろう


どこかにそんな若者職人は居ないか!


クラシカルなままで ばかに大きな竜頭のウォッチ


BLANCPAINは不滅なり


遥か遠い時を刻み続ける愛しきものよ



       



        (朝そぞろ書きにて推敲なし)


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