お願いですどうかピアノはスタジオで

どうにもこうにもおさまらない怒りがあった
怒るのは私の本意ではない
しかし 人生幾度かは強い言葉で相手を諭す必要がある


言わずとも解るだろうなどと悠長に構えていても
まったく不可解なる人種がいることを知ってびっくり玉手箱である
あ、パンドラの箱か そうそう そうだ メビウスの輪でもある


この16年間 階下のピアノ教室の音に悩んできた
一生住むのである
もう転勤引っ越しはないのである
であるからにして 諍いは避けたい
何度も何度も 静かなもの言いでお願いに行った


急にはやめられません だと?!
そう言ってから6年目


マンションの規約には楽器の教室をしてはならないと明記してある
それをまもらなければ排除の勧告もできるのだ
「すこしずつ減らします」といいながら6年続ける無神経に
堪忍袋の緒が切れた


喩えるに不適当ではない 知りつつ言うが
地震津波で海底に沈んだピアノを見て 静かでいいなと心から思った
私は罰あたりかもしれない
罰があたってもいいから あの音から逃げたかった


道を歩いていて戸建の家からピアノが聴こえてくるたびに
背中がゾッとした 走ってにげた
昔は好きだった 静かにCDを聴きながら手仕事をするのが
なによりの楽しみだった


階下の住人は工事をした リフォームである
当然防音工事をするのだろうと印鑑を押した
しかし なんということか
管理人さんの巡回時に聴こえないよう壁だけの防音であり
床と天井はしないという悪質


息子は耳栓を外せない状態が続いている
いつ鳴りだすかと思うと不安でならないと言う
それは私も同じだ


思いあまって 昨日夕方 訪ねて「奥様を」と云うと
「出かけています」と空事を言う 
ではお帰りになったら必ず来てくれと厳重に言い渡し帰宅


夜になって夫に事の顛末を告げるとぐったり疲れた
横になっているとチャイムが鳴った
夫婦で来たようだ
奥さんはしきり「もう弾きませんから」と言っていた 当然だ遅すぎる


こんなに人を怒らせて4ヶ月経ち
怒り心頭に発しての訪問で やっとの事
いい歳をした夫婦の為しようであろうか


自治会も管理組合も死に体である
なにかあったら自分で戦わねばならぬ


頼れるものは自分だ
子供を守るという母性である
男親には解るまい


階下の住人が「ピアノ騒音」とパソコンで検索したら
何が出てくるか 知らぬ筈はない バカにしているのである
「弁護士を頼む」などと筋違いなことを平気で言う愚かしさ
あの野卑なしぐさと物言い



相手が「私」で彼等は実に幸運だったと言えるかもしれない。







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