次郎跳ぶ


        戦争が廊下の奥に立ってゐた  渡辺白泉




        てふてふが一匹韃靼海峡を渡っていった  安西冬衛
   

   

   一句目は此の頃の不安を如実にあらわしている
   数ヶ月の不安はこれに象徴される



   そして「てふてふ」とは蝶であるから季語は春なれど
   次郎にとって 今は春なのである
   韃靼海峡(だったんかいきょう)とは「間宮海峡」のことだ
   蝶が飛ぶのは昼間と思うが 昼夜を分かたず渡りをする蝶がいる




        



   次郎は母親の精神の崩壊を案じ 身を投じ罪の犯者となった
   夜の海を越えて飛び続けることを選んだのだ
   


  「子供は明日の家に住んでいてあなたは訪ねることはできない」
   カリール・ジブランは書いていた 「預言者」で
   あなたの子供はあなたの子ではない
  「あなたを通ってくるが あなたからではない」


   聖母マリアはイエスという子をどのように育てたのだろうか
   乳を飲ませ這わせ歩かせまでしたのだろうか
   いったい いつ マリアのもとを去って
   あの十字架に蒼ざめた血を流すまでに至ったのだろうか
   マリアの母親としての悲しみはどこにも書かれてはいない


   復活という奇跡の場でマリアは我が子にであえたのだろうか
   なにがしか語り合えたのだろうか




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