ぼくたちのチェルノブイリ

        



 この本を復刊せざるを得なかった作家・中澤晶子さんの苦悩を想います
 

  復刊にあたってーこうなるまで、私たちは何をしていたのでしょう


 三月十一日あの事故以後「ある晴れた空」を読んだ横浜の中学生から
  こんな感想が寄せられました。
 「チェルノブイリの事故があったのなら、なぜ同じことがおこらないように
  しなかったのでしょう」
  私は「そのために」この作品を書いたはずでした。
  けれども気がつけば、私たちは「もっと便利に、もっと明るく」と
  電力を湯水のごとく消費し、その結果、地震列島に五十四基もの
  原発が乱立する状況を許していたのでした。
   本来ならば書棚の隅で眠っていた筈の作品がこのような状況で
  復刊することは「不幸」以外の何ものでもありません。(抜粋)


 


 本の主人公サッカー少年トオルはパパとママと三人でドイツに暮らしていた
 ママがウィーンに旅行中にチェルノブイリの事故が起こる
 ママがなにげなく口ずさんでいた歌
 

   ジャスト ア リトルレイン  ジャスト ア リトルレイン
   ワット ハブ ゼイ ダン トゥ ザ レイン


        


 題は「雨を汚したのは誰」

  
   あのね汚れた雨が降って、雨にぬれた少年も、緑の草も消えちゃったの
   だから「なぜ」って考える歌なわけ わかる?


      それは1986年4月23日のことだった


 ママは楽しそうに旅に出て そのさなかに事故は起こる
 帰宅して幾日かが過ぎて ママはトオルに弟か妹が生まれると告げる


 広島に原爆が落とされても生き残った人がいたのは
 味噌を食べていたからだなどという噂がたち
 それらを買い求める人々さえ出てくる
 トオル日本食を食べている自分達家族を後ろめたく感じる


 チェルノブイリとは聖書にも出てくる苦よもぎのことだ
 不吉な星の名前が苦よもぎ



     クリスマスの朝 トオルの弟がうまれた
     小さなにぎりこぶしはいのちのかたまりだ



        

               2025年後復刊





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