心細い・・・。

 10時にギャラリーに行くとすぐに
 画廊の田山さんが
「ちょっと出てきます 昼には戻ります」と出かけて行った
 はい、とディスプレイを直したり掃除をしたり・・・


 いろいろ品物があるのだけれど
 なんともかんとも(棟像志功さん)がおられる
 機嫌のとりようもないではないか
 してみれば桁違いの画の中でのお留守番
 アンティークの食器もあるし リアドロの豪華もおすましで居る


 画を買おうという方々は私の周囲にはいない
 いわゆるお金持ちだもの
 すいとご来場いただいても何にも言えない


 昼には戻るといった田山さんは一時になっても影もない
 

 三、四人ほどお客さんが見えて
 一人は名前だけ仰って帰られた

 二人目のご婦人は「買わないけれど見せてくださらない」と
 どうぞごごゆっくりごらんくださいませと
 そっと言い すこしずつ話しかけたらなんと満州から引き揚げてきたのだと
 その時代を静かにお話して下さった
 そして「私ね一日中だれとも話さないのよ 今日は良かったわ」と
 なんとも名状しがたい感覚が満州にいた亡父と繋がり懐かしかった
 けれどお淋しそうだった


 三人目の男性は美術館巡りがご趣味だそうで
 書の話から会津八一さんが出てきて歌が口をついて出て
 なんだか喜んで下さった
 話ははずんで あぁ嬉しいなと思いつついたら
 あれこれ購入して下さった
 少し高い材料を使った私の作品も気に入ってしきりに眺めて
 とうとう養女にしていただいた
「優しいお父さんのところに行けて幸せです」と思うままに言葉にして
 まるで娘を嫁にやる心持になった(多分ね)


 田山さんは ようよう二時に戻られて
「いっや〜 時間を間違えてしまいましてねぇ」と
 小さな画が三枚売れましたよと報告
 喜んで下さった


 私には初体験で実に学びになる日々を頂いたと感謝している
 帰途 心地よいバスの揺れであった


 なんだか 心の引き出しを開けて役に立ったと悦に入った
 休みなしの九日間 頑張れそうだ


 心細かったが 大丈夫だった 良し!




              🌺