昔とは

確か田辺聖子さんのエッセイにあったように記憶している

「昔とは父母のおわする時のことをいう」と

夫が母親を亡くして五カ月経った
義姉からの電話がつとに多くなった
筋金入りの勝気な義姉の初めて感じる弱気である
どこかに だれかに 何かをうったえずにはいられない
悲しみの治め方・・・

私は三十四歳の時に母を 四十歳の時に父を亡くしている
一人で苦しんだ気がする
子供は誰でもなにかしら責任を感じてしまうものなのかもしれない
もっとなにかできなかったのかと・・・
そして私の場合は母を責めたい気持ちもあった
しかし母は居ないのであった
街の明かりの一つ一つを訪ねて歩いても母は居ない
そのことが私を長い間苦しめた

もう終わった 母を赦した 母も何かを苦しんでいたのだろう
それで私に当たってきた そうなのねお母さん

父母が元気で私たちは若く子どもたちが幼かったあの日
しあわせに満ちた思い出の日々
実に昔である 父母のおわする昔である

これからは私たち夫婦が実に父母となって
太郎次郎に接したい 思いを贈ってやりたいと思う