いしいしんじ著 

      


ポーの話」より


「ひとはな、誰だって多少なりとも
 腹の底に罪悪感の種をもってるもんだ。
 で、そのなくしかたはそれぞれが、自分でみつけなけりゃならねえ。
 自分の斧にこびりついた汚れは、自分で拭くしかないだろう?」


「ただな、ひとが何かをほんとうにつぐなえるとは、
 わしには思えんよ。少なくとも、つぐなおうって思いでしているうちは
 それはほんとうのつぐないじゃあないな」


「〜ひとがなにかをつぐなおうって頭で思うとき、それはだいたい、
 自分の心を慰めるためにやってるんじゃないかね。
 相手のこころはそのつぎでな。
 〜むろん懲役や罰金なんかじゃあ、つぐないようのねえことが
 この世にはいくらでもあるってより、そういうことのほうが、
 うんと多いんじゃあないかね」


それならどうしたら償えるのだろうと考える
この本のなかの人が言うように
「つぐないようのねえこと」を私は黒い塊として腹の底ではなく
肌一枚の内側くまなくもっている
それをどうしていくかはこれからの私の為しようであり
反省であり 芥子粒ほどのの矜持であるのだ