家を差し上げます

春子姉さんと激しい言い合いをした
おそらく彼女にものを言い返したのは私ぐらいなものだろう
そして私が反論するとは夢にも思わなかったに違いない
なにしろ私は弟の嫁であり 彼女の義妹なのだから・・・


事は義父のいなくなった家のことである
毎月通って新盆まではきれいにしておこうと夫と話し合って
初めての草取りなどもしたし片づけもしている
そんな中 義兄が提案した
「この家はまだ住めるんだし被災者にただでやったらいいだろ
 インターネットかなんかないのか 誰かやってみてくれるといいな」と


私はずっと考えていた 市役所に言っても頼りない(済みません)
NPOなら早く手を打ってくれるのじゃないかと
悩んだがネットで探すと信頼おけそうなページが見つかり
さっそくメールを送ってみた


「家を無料で提供したいのです」
三月に独り暮らしの父が亡くなりました
地震のためいたんではおりますがまだ住むことは十分可能と思います
家の中の家電など一緒にさしあげます 比較的あたらしいものばかりです
庭は父の丹精した木があります 柿の実もなります
ガレージ 物置は頑丈なつくりです
布団は母がたくさん用意していましたのでご心配いりません
近くに白鳥の飛来する池があり歩いて15分で大きなスーパーもあります
家は夫の名義です お返事をお待ちしております


翌日返事のメールがあり詳細をやり取りし現在希望者を待っている段階だ
それを春子姉さんに電話で経過報告をした
彼女はその報告の二度目の電話をしたときに怒鳴りだした
「そんなことはしなくていい! 壊せばいい あんたは長男の嫁として
 最低だバカだたまに顔出して一年通ったくらいで威張るんじゃない」
それはもうかんかんに怒っていて話にもならないので私は電話を切った


夫に話すと「あぁ春子さんの(ばか)はオハヨウかコンニチハだと思って
聞き流せばよい 辛いんだろう」と言った
じゃあ言われた私の方はどうなるんだ・・・


しかし あの物静かな義母と寡黙な義父の娘の春子姉さん
どうしてあんなに柄がわるいのだろう
口から出るのは悪口と汚い言葉に終始する
もちろん私はずいぶんいろんな事を気配りしていただき
たくさんのいいものをもらった
しかし話は別である


人をどなり散らして威嚇して黙らせて生きてきたからといって
私には通じない 私はもう気を使うのはやめた
夫も賛成のこの家の提供の事案を進めるしダメでも別のところを探す


春子姉さんに初めて会ったとき
「あ・この人は同じクラスに5年でも7年でも一緒だったとしても
 私は絶対に近寄らないタイプだと直感した」
いかに言うよう義理とはいえ姉妹となった


彼女の気持ちは思いやることができる
二年続けて親を亡くし夫は病気なのだ 心配不安は山のようだろう
勝気だからそれを静かに言うことは彼女の気性が許さない
しかして私に当たるとは何事ぞ


おかげで私は不安発作の頓服を飲む毎日だ どうしてくれる
いやこれは自分の問題だ
夫が言うようにコンニチハとオハヨウに挨拶返せばいいだけのことだ

「気にしない気にしない」だと!!!
気にするべきことに「気にするな」と言う返事も聞き飽きた
私は私のやり方でどんどんことを進めていくつもりだ


夫に約束をとりつけた
「あなたはこれまで私をフォローしてくれたためしがない
 これは二人で決めてすすめていることなのだから
 知らんぷりはやめてね! ちゃんと妻の味方に徹してね」
あい解ったと返事はもらったが どうだか・・・・


家を無くした御方 どうかここに住んで下さい
風光明美なよいところです 安心して暮らして下さい