ちょっとショート ①魚

私は愚かにも釣り上げられ冷たい氷がゴロゴロ入った箱に入れられた


もはや海に帰ることはできないのだ


この釣り人はおそらく私を水槽に入れることなど思いもよらないだろう


私は体をS字型にくねらせ ささやかな抵抗をする 


しかし魚は手も足もない いうなれば細長いダルマだ


いったいいつまでこの男はこの行為を続けるのだろう


まるで永遠のような時が私を支配し


海の底での自由を思い出す力さえなくなっていった 寒い・・・


ふいに 上から見知らぬ魚が落ちてきた


なんだ おまえは 醜いものめ


否応なく体が擦り寄せられ お互いが離れようともがく


心は同じだろうが語り合う気にもならない


放してくれ 頼むから 帰してくれ 海に


誰かこの善良なる釣り人を背後から突き飛ばしてくれないだろうか


何もかもごったに全てだ 男が座っているイスも 道具も 


私が入っている箱も全部


海にぶちまけてくれないだろうか


ひたすら願う 釣り人の不運と何者かの邪悪


私は何者か 


私は私を見ることができる 


銀白色のぬめらかな肌をした魚


私は太刀魚だ



           ( ..)φメモメモ

        時々「ちょっとショート」を書くことにしました
        拙文ですがお読みくださいませ。