父の押し花

今週のお題「父との思い出」


        


これは父が戦地でこしらえた押し花です


父は三回召集されていて その何時の時の物かはわかりません


私はだってその頃影も形も無かったのですから


満州は寒いから花は小さく丈も短い


でも美しく咲くんだ と父は言っていました


白樺の幹の皮を葉書大に切り取って


押し花を細く切った紙で貼り付けています


これは父の形見です たくさんありました


義姉が引き継いで 額装して展覧会で紹介したら新聞に載りました


誇らしいです 実に嬉しいです




私は父が45歳のときの子供です


誠に孫のごとくに可愛がられました


いつも父の運転する車の後部座席にすわって


いろんなところに連れていってもらいました


私はすぐ車酔いをするので 窓を全部あけて


度々降りては レンゲの咲く田んぼや


遠く山並みの見える道に降り立っては景色を眺めました


雪が降ってきたことがありました あっという間に積り始めました


父は「待ってなさい」と言って チェーンを巻きました


ほんとに安心してヘッドライトに照らし出される父を見ていました


会う人ごとに「お孫さんですか?」と訊かれて


「はい そうです」なんて父は応えていました


私の顔と肌色と手の形は父にそっくりです


父は私の中にいつまでも生きています