ちょっと・ショート  ⑤ 太郎からのメール

お元気ですか? 昨日中学生のとき以来で「沈黙」を読みました


遠藤周作のね。


母もきっととっくに読んでいる本だろね、


信仰というものに足をふみいれかけの身には切実でした。


鎌倉の家を発つ晩、母はもう二度と会うことはないと言ったね。


あれは僕が家から離れていた14年間思い続けていたことであるし


そして僕が


母に言わせてしまった言葉でもあると思っている。


言った母はきっと辛かったろう、それは自分の実感として知っています。


親(子)として言ってはならぬ、言いたくない言葉だったはず。


僕は母をどれだけ傷つけてたか逆の立場で見させてもらってるんだと


後で気付きました。


僕の神様も「沈黙」のキリストと同じで沈黙されていますわ


そして「沈黙」のキリストと同様に


人には思い至らない次元でお守りくださってる。


あざないものの人間は後でそれに気づく。


僕は人生の途中でそういうふうに再スタートをせざるをえなかった


でも遠回りしたけど


母と父と次郎とまた繋がる芽をいただいてる。


母の言葉も我が身可愛いで傷つくことなく受け取れてます。


あの晩、母は二度と会わんと言って寝室に引っ込んでしまった。


次の日けっしてサングラスを外さなかった。


苦しいだろうシンドイだろうと思ってました


母自身の心を変えるわけにはいかないけど


少なくとも僕は傷ついてない。 その憂いは除外してかまわない。


僕は母の子ですから悩み方行き詰り方も同じくカラダで知ってますよ。


そしてそれはもういいんだと思い始めてます。


どうか文字通りにご自愛ください。 またメルします。




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ちょっと・ショートのカテゴリーにいれてお話としました
三年前にもらったメール プリントアウトしてファイルにいれていました
誰だって悩みます 自分の行方を捜します
私と太郎 太郎と家族 そして次郎の心の行方
私たち夫婦は皆さまと同じく 愛情をそそぎ子を育てました


いつだったか「キタキツネの子別れ」をテレビで見て
涙が止まりませんでした
可愛がって可愛がって育てた我が子をある日突然父親は
追い出すのです それは野生の戦いです
縄張りから追い出す成長した子への容赦ない攻撃
子供は「そんな!どうして?お父さん!」と何度も追いすがり
やがて諦めて去っていくのでした


私たちは人間ですからやがて和解しました
でも一度は生身を裂かれるような痛みに耐えなければならなかった
それは母と息子の必要不可欠な「戦い」でした
実に辛かった 苦しかったです 激痛でした
夫は言いました「こんな手紙のやり取りができる母子って居ないぞ」と


        実に私は幸いなるものです