ネズミの恋

ガラスのネックレスを見つけました
きっと誰も気づかないほどにそれは小さく
埋もれるようにありました


       


       


ガラス工房の職人がどんな手法でこしらえたものか解りませんが
3センチほどのガラスドームの中に
左手で目をぬぐい 下げた右手に大きな花を持っているネズミがいます
そして涙の滴が・・・


インターネットとは便利なものです
「泣いているネズミ」「花を持ったネズミ」etc いろいろな語句で検索
ひとつのお話をみつけました それは


昔々大きなお屋敷のメイドの部屋の天井裏にネズミがすんでいました
ネズミはその愛らしい働き者のメイドに恋をしたのです
なにか彼女を喜ばせるプレゼントをしたい でも彼には何もない
考えた末にお屋敷の庭に咲く美しい花を捧げようと思いつきました
猫と犬がいますから見つからないように夜中にそっと摘んで
彼女のテーブルに置いておきました
目を覚ましたメイドは「まあ誰が私にこんな美しい花をくれたのかしら」
喜んでよろこんで粗末なガラス瓶に活けました
するとなんということかお屋敷の奥様がそれを見つけて
「わたくしが丹精して育て咲かせた花を切るなんて!」と
たいそう怒りメイドは泣いて泣いて謝りましたが彼女は悔しかったのです
猫と犬に訊きました 彼等は知っていたのです ネズミの仕業と
メイドは猫をこっぴどく叱りました「お前がネズミを獲らないからだよ
もう餌はやらないからね」お腹をすかせた猫はずる賢くて
のんびり屋の犬の餌を食べてしまいました
犬はお腹が空いてたまりません でも餌は猫に食べられありません
しょんぼりと目の前にあらわれたネズミを
なんということかパクリと食べてしまいましたとさ


このお話のネズミの恋心と悲しさ哀れさを職人さんはどうしても
形にとどめておきたかったのでしょう
私は大切にこのネックレスを箱に入れたまま 時折り開けて見ては
叶わぬ恋を想うのです