夏がくれば思い出す


砂浜の砂が熱いので「あついよ〜 足があついよ〜!」と泣く次郎


しょうがないから抱きかかえて歩くと



子供の重みで私の足が砂にめりこみ熱さがましたっけ



ひょいひょいと跳ねて 波打ち際でホッとする



日本海の遠浅の海 人はまばらで 静かなプライベートビーチだった



透明な水が静かに寄せてはかえす



色白を嫌がっていた太郎は顔を 太陽にむける まっかっか!



2.3日して実家をたずねると あきれられた



子供はそれなり日焼けしたけれど



私の肩は真っ赤になってマグロのお刺身を乗っけたようで



足はぺろんと皮がむけた



「痕になるからね」と母は言ったが まったく残っていない 若さね



あの砂浜の熱さも日射しも夢の中のように遠い



遠いようだが確かにあった



お湯がしみて痛くて痛くてお風呂に肩まで入れなかった



その痛みは憶えている



庄内酒田 「おしん」のドラマの放送中だった



短い夏と 長い長い冬を二度堪能した



何もかもが新鮮でおいしかった



人々は海辺の町ゆえ 受け入れ態勢万全で親切で優しい



マーケットにはロシアの船員たちが買い物に来ていた



蝋人形のような若者と 赤くふくれた中年の比較・・・



その時は解らなかったけれど 人種の違いだったのだ



東洋人は加齢しても そう風貌にさしたる変化はないけれど



ほっそりした娘もとんでもないオバサンに変ぼうする



女子体操で活躍した ボギンスカヤ だったかな



少しも表情をかえないクールな美しい選手だった



今は6・7倍のオバサンになっているかしら


あぁ 東洋人でよかった




 社宅のキッチンの窓からは鳥海山が見えた



 ベランダからは 遠く灯台が望めて風の強い日は



 波がしらが灯台の倍の高さにも跳ね上がるのだった



 夏の昼には「南禅寺」というお豆腐やさんがやってくる



 美味しい! ご飯にかげてかきこむ



 亡母が喜んで「あんた美味しいもの食べられていいねえ」と言った



 三泊のはずが「あぁ 楽しかったから帰る!」と唐突に



 兄に電話すると「なに?」



 わがままな母は満足したから家に帰るということなのだ



 電車にのせて家族みんなで手を振った



 母が 私たちの転任先を訪ねて来た最期の地となった



 拾った貝殻と石と砂を袋に入れて持って



 母は満面の笑顔で車中の人となり帰って行った







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