井上ひさしさんの遺作「一週間」より 抜粋



「そんな神様がどこのいますか。


 キリストがペテロを殴り倒してマグダラのマリアと姦淫したという


 古文書があらわれたら、キリスト教はたちまち崩壊してしまいます。


 お釈迦様がお妾さんを囲っていたという史料が発見されたら


 仏教が成り立たなくなる。


 マホメットの好物が血のしたたるようなステーキだったという


 手紙が出てきたら、回教徒がいなくなる。


 ところがここにレーニン少数民族を裏切ったという


 手紙がある  しかも自筆の手紙だ


 この手紙が世に出たらどうなりますか」







シベリアを描いてこのようにいわゆる笑いのめしたような作品を
私は初めて読んだ   寒さも痛さも感じないのである



井上ひさしさんのこの本を文学座の公演でみてみたい
苦しみ悲しみ嘆きは人間に最初から備わっている
そこに笑いをもたらすのが作家の使命であると語っていた井上さん
あらゆる戦争の下地には某者の狡猾さと詐取と犯罪がある
それらを白日のもとにさらして いや みな解っているのだ
ただ強大なうむを言わせぬ力で引き立てられていかざるを得ない
無辜の民  ひたすら惨い






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