情景ふたつ

        



これはバスの優先席にこぼれおちた かすみ草の花一輪


ご年配のご夫婦が座っておられた


建長寺で降りていかれたから


檀家の方であろう   ご主人は杖をついておられた


白いストックと小菊とカスミ草の花束をもって


お若いころはさぞやと思われる通るお声で奥様に命令なさっていた


「この足だから待っていてもいいんだ僕は


 君はひとりで行ってきたまえ 帰りのバスの時刻は解ったな」


運転手さんが言う 「バスが止まるまで立たないでください」


奥様が「立っちゃダメですって 待ちましょう」


不自由なおみ足で降りて行かれた  もどかしくて御立腹なのだ


こぼれた花の白さ


どんな若さもやがては歳月を経て 気骨があっても体は老いる


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バスとバンがすれ違う時に 刹那みた景色は哀しかった


遺影を抱いた若人がひたとうつむく助手席


生と死とがすれ違う  それは日常であるのだが


なんと不条理なことだろうかと いやそうではないのかもしれない


それは「仕組み」なのだ


どんな情景に出会っても理解することができるようになるまで


私を生かしてくださってありがとうございますと


その大いなるものの存在を確かに感じて目を閉じた




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