深き闇その淵よりの生還を静かに雨の迎えおるらむ

昨日は次郎と散歩した
これは快挙である
ず〜っと諦めず待っていた日がきたのだ
「傘をさしてるから顔を隠せていいや」と言うので
小林多喜二みたいね」と答えると
「誰それ?」
そこが太郎と違うところだ
読んでいる本の傾向が違っている
「あのね特高警察に追われて
 活動家や作家は逮捕で拷問されていたのよ」
「あぁ そうなの」
ポンポンと文学の会話は弾まないが充分に満足した
「これからはいろんなところを歩こうよ 外はいいわよ」
「うん そうする 浦島太郎みたいな気持ちだなぁ僕」
高校生みたいな顔のまんまで無邪気な事を言う
でもここまでくるのになんと苦しんだことだろう
次郎も私たちも
けれど困難があってこそのこの喜びだ
「僕はなまっちゃった体を元にもどして頑張るよ」
そうだよね それがいい
お母さんはいつまでも待っているよ



世の中の邪気に負けてしまった次郎だった
弱かったのではない 拷問に等しかったのだ 心は痛手を負った
良心と正義感だけでは通用しない世俗に我慢ならなかったのだ
これからは邪な者達には戦いを挑もう
泣き寝入りすることはない
実にまっとうに育ったのだと誇らしく感じる


暗い淵から帰還した次郎
口数は少ないがお茶目だった子ども時代 泣き虫でもあった
多弁で大人びていた太郎とは対照的だったな
しかし
内なるものの清廉さは吾子二人とも同じ 誇らしい


私の日々の祈りは
願いではなく ただ祈りであった
なにも望まず ひたすら祈っていたのだ


 「散歩したサラダ記念日かささして土のにおいよ匂いたつ雨」ゑ


                ✿