天国


からりと晴れた秋空の下を歩きながら 毎年口ずさむ俳句がある

交通事故で父上を失った小学5年生の女の子の俳句


        「天国ももう秋ですかお父さん」




そして芥川龍之介 七歳の作といわれる源氏物語から引いた句


       「落ち葉焚いて葉守の神を見し夜かな」




そして季語は蜘蛛で夏なれど 妙に目につく 蜘蛛の巣と大きな家主


     「蜘蛛に生まれ網をかけねばならぬかな」高浜虚子




私は今 「人に生まれ人喰らわねばならぬかな」の心持でいる


私にも小学5年生の時があった 東京オリンピックだった
何ら興味ももたず 皆が興奮するのを傍観していた
父母は健在であり恵まれた環境だった
いったいに豊かも貧も混在していた時代だったのだ
私は本の池か隄にとっぷりつかり 羊水の中の胎児だったと振り返る
内陸ゆえ海は一年に一回見れば そのあまりな広大さに圧倒された
満州に片目を置いてきた叔父はシニカルな人で
「アッ海だ! 広いなあ 池かしら 堤かしら」と言うので
子供ながらに言い当てられて 転げて笑い
「そんなに可笑しいか」と呆れられた


叔父は父の五人兄弟の四男であり 息子が四人いた
博、厚、正、充 ひろちゃん あっちゃん ただちゃん みつるちゃん
みんなどうしているだろう
ひろちゃんは警察官であっちゃんは体育教師 ただちゃんは航空管制官だった
みつるちゃんは当時は晴天の霹靂の「中学浪人」をさせられたっけ!
そのあとのことは知らない


叔父の死の床にかけつけた トイレの前に長身の男の人がいた
誰もいない病室で待っていると
ただちゃん・・・「EPOMだとすぐわかったよ」と 
叔父は息子の手も借りず歩いて来てベットに横たわり
「EPOMか おじさんはもうダメだ」と言った
父達がそのあとに行くと無言だったそうだ
私を可愛がってくれた 実に難しい叔母でさえ私には優しかったな
叔母は長男の嫁の精神を破壊したらしい そうだろう 解る
その叔母もとうに逝った


天国には懐かしい人ばかりがいる 思い出されて慕わしい


母に会うのは気がひける また叱られるかなと まだ怖い
だから 思い切り老けて「誰?」と解らなくなるまでここに居よう
決めた 決めた 決定事項!





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