向かい風

 珍しく暴風雨だった しかも氷雨である
 そういう時はタクシーを利用するべき
 私って何故だか逆らう 
 傘を盾に踏ん張って歩くだらだら坂
 雨は浅い川のように流れてきて
 場所によってはやや深い


 こんな時のために用意していた完全防水をうたった靴は
 嘘ばっかりの完全漏水 ひどいわ!
 購入店にこればっかりは言うぞと決めて歩を進めた
 裸足で歩く心地せり 行路病者になるやもしれぬ 大袈裟な。。。


 悲観的な性格のくせに何故か面白がる
 これは「向かい風」ではないか
 住井すゑ著と思い出す
 しかし内容がわからない ということは 読んでいない?


 用事を済ませて帰宅 靴には新聞紙 靴下脱いで せいせいする
 足元ヒーターをつけてパソコン様に御伺い


「向かい風」
 シベリア抑留から帰った夫を迎えに行った妻の背中におぶわれているのは
 その夫の弟となる赤ん坊
 家の存続を最優先した舅と嫁と息子の苦悩


 もし色に悲しみ色があるならば
 牛久沼の湖面には限りなく藍色に近い悲しみ色に染まったことだろう
 


 住井すゑさんは奈良の生まれ
橋のない川」をその目で見て育ち
 橋のない川面を多感な成長期に見つめ続けた人なのだ


 柔らかな笑顔の百歳のお顔のページがあった
 百六歳にてご逝去


 野ばらの日 大地のえくぼ


 わが悲しみなど瑣末なことであった 実にじつに






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