マニマニさんの思い出

あちこち転々として住所不定などと言われていた転勤激しい頃
お隣にマニマニさんというバリバリ大阪のおばちゃんがいた
おばちゃんていっても同い年だったけれどね
栄養士をしてたんやと云う割には子供二人は肥満児で
「計算したんやけどこうなったんや」と訊きもしないのに言うのだった


さて私は年に二回ぐらい起立性低血圧というので
バタンかクニャリとたおれる
後者の場合は平気だが前者のときには棒倒しになるから大けがとなる


あの時は真っ暗になって気がつくと朝だすゴミ袋を枕にしていて
口の中が血の味がした
あれれ・・・前歯が折れて下唇から突き出ている また失神しそう
歯を持って洗面所にいる夫のところに行った
夫は真っ青になった そうだろう お化けを見たんだもの


ピンポーンとチャイムが鳴って「はい」
「あ・マニマニですけど回覧板です」
入れといて下さいとは言えない質で出て行った
ドアをあけると!
「あんた!どないしたんや その顔」
頭をぶつけたのになぜか目の周りが青空色に輪っかになって
ざんばら髪で唇に縫った糸がはらはら揺れて 歯が一本無い
「こうこうこういうわけで云々・・・」と私
「へえ〜 いい気味やわぁ そやけどあんた
 そんなんなっても私よりきれいやなぁ」


私は黙って回覧板を受け取りドアを閉め
ふふっとひひっと喜んだ
あぁ世の中にはこういうお見舞いの言葉があるんだなあ
こういう慰め方があるんだなあ と 思った・・・


いつか私もこんな慰め方ができるだろうか
いやないな 雪降る町の根暗な性格
無理だろうから そっと記憶にとどめた

マニマニさんは まだあの街で暮らしている
黄色い革のブレザーなんかを着こなすんだ
カッコイイのだ 大阪のおばちゃんにブッ飛ばされて
私は嬉しかった