一年目の真実

夫と申し合わせたわけではないが、多分私たちは誰にも言わないだろう
姉弟達のだれにも云わずにおくだろう 
11日の夜に義父と三人で実にささやかな夕食をとりながら
私は父に何かと話しかけていた そうでもしないと「痛い痛い」と
「こんなに痛くちゃ死んちまう」の繰り返しだから
気分を逸らさねばならないし 訊き出す昔話が興味深いからだ
すると父はふいにこんなことを言いだした


「ばあちゃんは朝ご飯を食べながら死んだんだわい」
え?・・・・ 朝に冷たくなってたんじゃないの?
「いいやぁ 朝ご飯を作ってお盆にのせてベットに持って行った
 そして一口 二口 食べて そしたら じっとしてるから
 おかしいなぁとしばらく見てたんだわい そうしたら すーっと
 後ろに行っちゃって 目を閉じて 終わったんだわい」
え・・・?・・・・どうして言わなかったの?
「誰も訊かなかったしな あれは幸せだったわい
 マンマ食いながら死んだんだものない」


あの朝 警察医がきて検死して 午前零時ごろ亡くなったのでしょう
という見解だったはず 口の中も調べたはず
どうなってるの・・・義母は二口分のご飯をしっかり飲み込んでいたの?
解剖をすれば食べたばかりのご飯が喉から食道につながってあったはず
事件性はないのだからいいのか
しかし一応は「バックはありますか? 財布は?」と検めたという
そして5万円の検死代 こう言ってはなんですが高いですね そんなもの?


誰にも言わないことをこうしてここに書いた
去年も同じ日に雪が降った 義母は朝まで生きていたのだ
おじいちゃんの作った朝食を食べながら逝ったのだと知った 一年目の真実