ちょっと・ショート  ④ 土蔵


       


丸男はいわゆるキレるガキだった


幾度となく閉じ込められた土蔵の暗さなど平気だったから


泣きも騒ぎもしなかった


まあ 入れられる前にさんざっぱら大騒ぎしているのだから


土蔵の中は丸男の昼寝場所といった趣だった


蔵の一番高い所にある小さい明りとりの窓から差す光の帯に


無数のきらめきが見える それはただのちり芥なのだが


その一粒一粒は確かに光でできていて


丸男の頭の中にはこの粉々がいつもいっぱいに揺らめいていて


何故か 不意に渦巻いて立ち上がるのだ


そんな時丸男は いてもたっても居られなくなり 暴れるのだ


ある日のこと ご飯が入ったお櫃を蹴飛ばした


お櫃は 茶の間を転がり すぐの玄関の上りがまちを転げ落ち 


ころり ころころ ころころ・・・と


小路を抜けて前の街道まで転がって行った


母親が おろおろと追いかける


丸男は事のついでにちゃぶ台もひっくり返した


星飛雄馬のとうちゃんばりである


幼いかいい歳かの差だけで同じことは起こるのである 起こすのかな?


いつもは穏やかな祖父が竹ぼうきでたたき 


父親は丸男の首根っこをつかまえて


いつもの土蔵の戸をあけ彼を放り込み頭が冷えるのを願うのだ


願いは叶えられないが 他の姉弟の手前もあることで致し方ない


この子はいったいどんなふうになるのだろうとじじばば父母は不安だった


しかし丸男は長ずるにつれ大人しい少年になり青年になっていった


明朗快活で思慮深く頭脳明晰までついていた


学校では良く学び 会社では良く勤め 今でも請われての現役である


しかし 丸男の妻は知っている


丸男の心の奥の奥のちり芥の煌めきと渦を 


それは幼少期からのある種の発作だ


遠い日の花火のようなもの ま そう言っておこう


       妻の名は つう