背負うもの

        

      背負いつつ来た道行く道語りてか   ゑぽむ




        

     ヴィオロンを背に温かくすする麺   ゑぽむ




人はみな重い荷を背負うてゆくがごとしとはいう


ちっとも重そうではなく見えるが


身の内にあるものは言いつくせないほどのものなのだ


みんな平気な顔で歩いてはいるけれど


話せば小説より奇なりの苦しさかもしれない


冬日を浴びてゆく夫婦も 場違いにみえる中華屋さんのヴァイリニストも


少し笑ってうんと泣いていたかもしれない


ただ少しの笑いがどれだけ救いであるか


それは思い出であっても事実だ


子等の愛しさ ぬくもりを腕に感じる時


それは人として生まれ手にした最高のしあわせだろう


もしもその経験がなくとも


それに代わる何かを育み人は成長しつづける


老いてもなお それは絶えることなくあり続ける


人の背は顔を見ずとも内側が表われて見える


それは若いころにはけっして備わらないことだから


なんと素晴らしいいまであろうか


これからどんどんこの能力は増していくのだ


頑固にならず意固地にならず素直に歳を重ねていきたい


学ぶことを忘れずたえず五感を研ぎ澄ましていたい


亡母の言っていたことがやっと理解できるようになった


そして怖がっているばかりだった彼女を愛しく思える


亡父はひたすら優しくあった


それは私の年齢にしては珍しい戦争体験を持つ父であったからだ


それは語られずとも連鎖され私の追体験となり糧となった


もう直に礼をいうことは叶わぬが 通じているだろう


そして 私の子等にも通じていくだろう


夕べ久しく夫と語らいこの思いを強くした


生まれて人生の旅をして 実際にあちこちと住まいして


それぞれの土地の空気も知った


冬の雪の違いもわかる


片栗粉のような雪を踏みしめて歩いたこと


遠いことだがかけがえのない体験だ


私たち家族はそれぞれの環境をとおして同じく育った


子も親も 親も子も  記憶の貴重さ


背負うものは明るいものでもあるのだ


軽みのあるものでもあるのだ


今日も始まる 新しい日






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