書を持たず旅に出よう


今日は「新幹線あさま」に乗る


早朝の道を駅まで歩く


去年は「あずさ」に乗った


車窓からの景色はどんどん季節が逆もどりして


年に二度の春の味わいに


本を閉じて景色に魅入った


故郷のそれに似ていて幼心にかえったようだった


「あさま」からの眺めはどうであろうか


初春のややひんやりとした空気を胸いっぱいに吸い込んでこよう


そしてたまには本を持たず・・・いや心配だからお守りに


薄い文庫をバックに入れはした 性分だからしょうがない


信州というところはなんと私の身にひたりと合った土地であろうか


懐かしくも慕わしい


知り合いの居ない故郷 道を知らない故郷 


父も母もそこにはいないが 帰れば笑顔で迎えてくれる


そんな気がする


私はゆっくり甘えて座り込みわがままを言う


「そうか来たか」父が言う 「お昼はなにが食べたい?」と母が訊く


家は昔のままだ 玄関の前の柘植の木 庭には小さな花が咲いている


「ただいま」と言うのを忘れないようにしなくちゃ


おやつは蒸しパンかな


二階の部屋はそのままだ


本棚の前でたたずみ手をのばす


遠い夢の日





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