心で話す

ずいぶん子供だった頃 従兄が迷子の男の子を連れてきた


父は警察に電話したのだと思う


どれほど時間がたったのか 夜になっていた


大人の男の人が来ておじぎをし


迷子の子に向かって 指さし、Xの印を身振りした


ろうあ学校の寮から逃げ出したと後に知った


X バツ印→ダメ、バカ 「おまえダメ」






太郎が置いていった手話の本は三冊あって


これは実用書ではなくそれ以前の実にたいせつな魂の著書だ


オリバー・サックス原作 映画「レナードの朝」は彼の医学エッセイ


そして、まりんかさんに出会って知った


「白雪姫プロジェクト」のお話なのだった


さて手話に戻るが その奥深さに震撼した


子供の頃に出会った「迷子ではなく逃亡した少年のいたましい沈黙」


あちらこちらと検索し 心無い呼び名に気付いた 「障害者」


「始めに言葉ありき」とは耳にした方が多くおられるだろう


もし聴こえなかったら それも「生まれつき」と「中途から」と


「年老いてから」と三つある


「障害」を「障碍」にとの考慮も知った


「始まりはすべて事である」と



さて太郎がこの本をなぜ読んでいたか


友人がたまたま ろうあ者であったから 手話ができないと差別になる


そう考えたから日常会話ができる程度に独習した


それだけの事





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